『事実は小説より奇なり』
現実では時に、フィクションよりかえって不思議で奇妙な出来事が起こる。と言うことわざだ。
 
  
 
このことわざの如く、今この広い異国の地で起きた "奇跡" に、僕は胸の高鳴りを抑える事ができなかった。
 
 
 
 
人口約1000万人の都市、ジャカルタ。
面積、人口密度ともに東京都の23区ほどのインドネシア最大の都市である。
 
 
そこで奇跡としか言い様のない "千載一遇のチャンス" に遭遇した僕は、2日前に犯した失態にピリオドを打つべく意を決して行動に出たのであった。
 
 
僕は決して得意ではない英語での謝辞を、何度も頭の中でリピートした。
 

青木
「Hey! I’m so amazing! I’m sorry…, I have your pen.」
(やあ! めっちゃ驚きだよ!ごめんなさい…僕、君のペン持ってんだ)


 
(2日前)
 
東京で仕事を終えた僕は、その足で羽田国際空港に向かいジャカルタ行きの便に搭乗した。
 
多忙な1週間の疲れと搭乗前にターミナルの寿司屋でビールを飲んだせいか、狭いエコノミークラスの座席に窮屈さを感じながらも、トムクルーズの出演する映画を流したまま深い眠りに落ちていた。
 
 
 
 
 
 
離陸してからどのくらい時間が経ったのだろうか…
 
 
 
 
目を覚ました僕の手元には、隣から入国時に必要な書類が回ってきた。
僕は眠い目を擦りながら、英語で書かれたその書類に目を通した。
 
 
 
 
 
 
しまった、、書く物がない…(-。-;
 
 
 
 
3つ並びの隣の席を見ると、ふくよかなインドネシア人のカップルが入国書類に必要事項を記入していた。
 
 
 
 
僕は学生時代に習った英語を思い出し緊張しながらそっと声を掛けた。
 

青木
「Excuse me…, would you lend me your pen?」
(すみません、僕にペン貸していただけませんか?)

 

インドネシア人
「OK!」(いいよ!)

 
 
隣のふくよかなインドネシア人の男は、快くペンを僕に貸してくれたのであった。
 
 
 
 
そして入国書類を書き終えた僕は、片言の英語でインドネシア人の男と簡単な会話を交わし再び眠りに落ちた…
 
 
  

 
 
 
(ズドーーン、ゴーーーーー)
 
  
 
 
 
 
 
着陸の衝撃で目が覚め窓の外を見ると、飛行機の右翼のスポイラー(ブレーキ)が大きく立ち上がっていた。
 
 
 
 
飛行機は完全に停止し、続々と搭乗客が立ちがり始めた。 
 
 
 
僕の横のインドネシア人のカップルもそそくさと頭上の荷物棚から荷物を下ろし僕に一声を掛けた。
 
 

インドネシア人
「Enjoy your sightseeing! Good luck!」
(観光を楽しんで!良い事があります様に!)

 

青木
「Thank you for asking!」
(心遣い本当にありがとう!)

 
 
 
 
 
別れを告げ、自分の荷物をまとめようと机に目をやったその時…
 
 
 
僕は "失態" を犯したことに気がついた…
 
 
 
 
 

青木
「I have a pen!!!!!!」

  

僕は心の中で叫んだ。
  
 
リンゴもパインも刺せずに、僕の心の中は罪悪感で覆われた。
 
(なんてこった…僕の愚行で1人のインドネシア人の日本人に対する品位を下げてしまう…)
 
 
 
 
 
僕は、慌てて飛行機から降り税関に向かったが、ふくよかな彼を見つけ出す事ができなかった。

 
 
「あぁ神様、僕はなんて罰当たりな事をしてしまったのだろう…」

 
 
僕は神にそう問いかけてみたが、イスラム教徒の多いこの地で神が僕に答えることはなかった。
 
 
 


 
(滞在3日目)
  

午前中にインドネシアのシランダックタウンにあるゴールドジムでトレーニングを終えた後、僕はジャカルタ随一のしゃぶしゃぶ屋さん「しゃぶ里」に向かった。
 
イスラム教徒が大半のインドネシアなので牛しゃぶのみのバイキング形式のしゃぶしゃぶ屋だ。
 
  
 
 
 
そして "最大の事件" はそのしゃぶ里の "サラダバイキング" で起こったのである。

 
 
 
 
 

⁉︎⁉︎
 
 
 
  
 
 
僕は、目の前で "野菜を取る男" を見て、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
 
 
 
 
  

間違いない…あの時の男だ‼︎
 
 
 
 
神はまだ僕の事を見捨ててはいなかった。
 
 
 
この広い都市での再会、奇跡以外の何物でもなかった。
 
 
  
 
 
 
一瞬、異国の地に来て「臆病という名のリミッター」を解除していた僕は躊躇なく声を掛けてしまいそうになったが、ギリギリ理性を働かせ、しばらく観察をする事にした。
 
 
 
 
 
座席に戻る彼を目で追うと、そこには飛行機で彼と一緒にいた女性が座っていたのであった。
 
 
 
 
 
 

間違いない!!

 
 

 
 
僕の心の中の疑惑が "確信" に変わった。
 
 
  

 
彼を完全にロックオンした僕は、彼に掛ける言葉を頭の中で何度も繰り返した。
 
 
 
 
…そして20分後。
 
いよいよそのチャンスが到来した。
 
 
  
 
 
再びサラダバイキングに向かった彼を見て、僕は胸を踊らせながら一目散に彼に元に向かった。
 
 
 
 
そして、ついに彼を狙い撃ちしたのだ。
 
 
 
 

青木
「Hey! I’m so amazing! I’m sorry…, I have your pen‼︎」
(やあ! めっちゃ驚きだよ!ごめんなさい…僕、君のペン持ってんだ)

 
 
 
 
そして、彼はふり返り僕に言葉をかけたのであった。
 
 
 
 
 

インドネシア人
「What? Who are you?」
(え、あんた誰?)

 
 
(゚口゚;(゚口゚;(゚口゚;…エッ⁉︎

 
 
 
 

インドネシア人
「I can’t take vegetable!!」
(野菜が取れないからどいてくれ)

 
 
(゚◇゚;)(゚◇゚;)(゚◇゚;)

 
 
 
眉間に皺を寄せた彼は、吐き捨てる様に僕の心に思いっきりペンを突き刺した。
 
 
 
 
 
 
 
 
…人違いだった。
 
  
 
 

 
 
 
 
僕は異国の地で起きた惨事に、しばらく立ちすくんだ。
 
 
 
しかし、なぜか不思議と清々しさを感じた。
 
 
 
 
 
頭のどこかにこびり付いた、小さい頃から「失敗してはいけない」と刷り込まれていた行動のサイドブレーキが外れた気がした。
 
 
 
 
 
 
 
2日後、日本行きの便に乗るジャカルタ空港で、お金の入った透明のボックスの中にポケットに残ったインドネシア紙幣を突っ込み1人帰路に着いた。
 

(おしまい)


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