#108ブログの箸休め⑥『トイレットペーパー事件』~強風×紙の破壊力~

あれは遡ること約1年前、春一番が吹き荒れる晴れた日に起こった事件であった。

 

 

『強風の日には何かが起こる』

 

 

 

昔風が吹き荒れる日に、持っていた100枚ほどの紙を紙吹雪の様にばら撒いた経験がある僕は、人一倍強風に対して警戒をし、その日も家を出発した。

 

 

ましてや『強風×紙』の破壊力は誰よりも肌身で感じ十二分に理解していた。

 

 

 

 

つもりだった…

 

 

 

 

荒れ狂う風に公園の木々が騒めく中、その日も駅に向かって、いつもより重たいペダルを漕いでいた。

 

 

住宅街のある中路なかみちから国道に出て広い歩道を直進しているさなか、その事件は起きたのだ。

 

 

 

(コロッ、コロコロコロコローーー)

 

 

突然、前方から得体の知れない白い物体が、一目散に僕を目掛けて猛進してきたのである。

 

そのあまりのスピードに僕は自転車から降り、すぐに戦闘態勢を整えた。

 

 

 

(ゴロゴロゴロゴロッッーーーー)

 

 

強風にあおられたその白い物体は、残像を残すほどに加速し、荒れ狂ったかの様に10mの射程圏内まで迫って来た。

 

そして、いよいよ僕は出発前に磨きあげた眼鏡のレンズ越しに、その正体を捉えることができた。

 

 

 

その白い物体の正体は、

 

 

 

 

『トイレットペーパー』
であった。

 

 

その円柱状のロールは一度も軌道を外すことなく、追い風に乗って一気に僕の眼前まで詰め寄ってきた。

 

 

 

絶対にトンネルは許されない…

 

 

僕は経験のない円柱状の物体のライナー性のゴロを受け止める為に、決してエラーの許されない外野手の如く理想的な捕球態勢に入った。

 

 

 

(パシッ‼︎)

 

 

ナイスキャッチだった。

 

 

 

しかし、
手に収めた白いロールを見た次の瞬間…

 

 

 

あまりの衝撃に僕はおののいた。

 

 

 

 

 

 

芯なし⁉︎⁉︎

 

 

芯なしのトイレットペーパーであった。

 

 

 

 

万一、僕がエラーをした時の事を想像すると体の底から身震いがした。

 

僕の十数m後ろには車道があり、今なお車が激しく行き交っていたのだ。

 

芯なしロールの全長は優に100mを超える為、僕の股をすり抜けたら確実に車道に達し、万事休したはずだ。

 

 

 

 

『すみませーーーん‼︎』

 

 

その時、遠方から声が聞こえた。

 

 

 

手に取った芯なしロールが描いた軌跡をたどってみると、小さな人影が見えた。

 

約30m先でロールの末端は、10歳ほどの少女と繋がっていたのだ。

 

そして、その横には惨事が起こっているにも関わらず、あっけらかんとした表情で口呼吸する柴犬がいた。

 

 

 

その少女は、愛犬の柴犬を連れて1人でお散歩をしていたところ、愛犬が路肩でう◯ちをしたため、手さげ袋に入れた新品の芯なしロールを使って、回収に取り掛かろうとしていた最中だったのだ。

 

 

まず、新品を持ってきたところが少女の "ファーストミス" である。

 

 

恐らく芯なしロールの全長を見くびっていたのだろう。

 

 

 

片手にリードを持って、少女の小さな手で新品の芯なしロールを扱うには、風が穏やかであったとしても無理があることは容易に想像がつく。

 

 

少女は自らが犯した失態に慌てふためきながら、僕の方へ小走りで近づいてきた。

 

 

 

 

とその時。

 

 

 

少女は信じられない "セカンドミス" を犯したのだ。

 

 

僕はその衝撃的な光景に目を疑った。

 

 

 

 

なんと、少女は手にしていたの芯なしロールの末端を手放したのだ

 

 

 

おったまげた。

 

 

 

歩道に引かれた芯なしロールの長い尾ビレが、一斉に僕に攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

一瞬の出来事だった。

 

 

 

 

抵抗する間もなく、トイレットペーパーは僕の脚に何重にも絡みついた。その光景は今思い出すだけでもカオスだ。

 

 

春の国道沿いの歩道で、30mのトイレットペーパーがぐるぐるに脚に絡みつく僕は、白旗を上げ抵抗することなくその場に立ちすくんだ。

 

 

少女が僕の元に着くまでの数秒がとてつもなく長く、数十分にも感じた。

 

 

気がつくと、まるで物珍しい物を見つけたかの様に少女の持つ無駄に長いリードに繋がれた柴犬が先走って到着し、あらぬ事か…僕の周りを回った。

 

 

 

雁字搦がんじがらとはこの事を言うのだろう。

 

 

少女は平謝りしながら、縛られた僕を助け事なきを得た。

 

 

 

 

『風強いから気をつけるんだよ』

 

 

少女は軽く頭を下げ、愛犬を連れたまま追い風に乗り一度も振り返る事なく去っていった。

 

 

 

少女を見送った僕は胸をなでおろし、再び重いペダルを漕いだ。

 

 

そして僕は、30mほど直進したところで、衝撃的な光景を目の当たりにしてしまったのであった。

 

 

僕は驚きのあまりバランスを崩した。

 

 

 

 

少女は "ファイナルミス" 犯していたのだ。

 

 

 

 

『決して過去は振り返らず、前だけを見て直進する』

 

そんな少女の生きる姿勢に、僕は嫉妬心すら覚えた。

 

 

 

 

そこには、まるで飼い主に捨てられた猫の様な悲しげの表情をしたう◯ちが、じっと僕を見つめていた。

 

 

 

言葉に言い表す事のできないうやむやを頭に抱えたまま、僕は再び向かい風に立ち向かった。

 

 

(おしまい)
 

編集後記

2018年春の出来事です。
大した事ない出来事を、大げさに書く事が特技です。

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